桑の葉

 くわばらくわばら・・・。雷が落ちないように、というこの呪文。大宰府に流された菅原道真が雷神となって復讐をしたとき、故郷の桑原にだけは雷を落とさなかったから、とする説が有力のようですが、最近は、さすがに口にする人は少なくなりました。でも、今の時代まで、この言葉が残っているということは、意外に効果があったのかもしれませんね。

 蚕の飼料として、日本各地に広まった桑。養蚕がさかんな地域を中心に、その葉を干して、お茶としても利用されてきました。桑の葉茶は滋養強壮、脚気、咳などによいとされ、古い書物の中には、「飲水」によいとの記述も見られます。飲水とは、のどが渇く病気のこと。今でいう糖尿病でしょうか。 最近は科学的な分析も進み、桑の葉に含まれる「1-デオキシノジリマイシン(DNJ)」という成分に、血糖値の上昇を抑える作用があることがわかってきました。
 ところで、ごはんやパンなどに含まれるデンプンは、ブドウ糖が長く連なったもの。エネルギー源として不可欠なものですが、デンプンのままでは大きすぎて吸収されないため、消化酵素によって、ブドウ糖1つ1つに切り離される必要があります。しかし、その切り離す酵素が十分に働かないと、吸収されるブドウ糖の量は減少。その結果、食事のあとの血糖値(ブドウ糖の量)の上昇がゆるやかになると考えられます。
 桑の葉に含まれるDNJの構造は、ブドウ糖とよく似ています。このため、糖が二つつながった二糖類を単糖(デンプン)に分解する消化酵素の一つ「α‐グルコシダーゼ」とくっつきやすく、DNJと結合したα‐グルコシダーゼは、消化酵素としての作用を失ってしまうのです。

 同じようなことが、実際の糖尿病治療薬にも応用されています。「食事のすぐ前にのんで下さい」と指示される薬、「α-グルコシダーゼ阻害薬」「食後過血糖防止薬」と呼ばれる薬がそれにあたります。
 同じ酵素の働きを抑えるわけですから、食事の前にこの薬をのみ、桑の葉茶を飲みながら食事をしたら・・・。お腹が張る、おならが出るなど、この薬の副作用が出やすくなることが考えられます(場合によっては、腸閉塞のような症状を起こすことも)。
 これ以外の糖尿病治療薬をのんでいる人、インスリン製剤を使用している人でも、併用によって、血糖値が下がりすぎたり、血糖値のコントロールがうまくいかなくなったりする可能性もあります。糖尿病は、生活習慣を見直し、薬での治療をきちんと続けることが第一。糖尿病の治療を受けている人での、桑の葉などのサプリメントを使用は、必ず、医師・薬剤師に相談の上で。
 糖尿病の治療を受けていない場合は、おすすめ商品ですが、「糖が吸収されないなら」と食べ過ぎてしまっては本末転倒。サプリメントは補助的な手段であること、どうぞお忘れなく。