ツキミソウ

 「王・長島が向日葵ならば、俺はひっそりと咲く月見草」と言ったのは、南海ホークス(当時)の野村克也選手。2500安打を放った試合後のインタビューで口にした名言です。この日の観客はわずか6000人ほど。史上初の記録にも、大歓声や大拍手が起こることはなかったそうで・・・。ちょっと憂いを帯びた月見草に、自分の姿が重なったのでしょうか。

 「ツキミソウオイル配合」「ツキミソウエキス配合」という商品を目にしたことはありませんか。サプリメントのほか、アロマオイルや化粧品など、さまざまなアイテムがありますが、日本で販売されているツキミソウ関連商品のほとんどは、ツキミソウではなく、メマツヨイグサの成分を用いたものだとのこと。
 といっても、慣例的にそうなっているだけのようで、偽装表示というわけではありません。ツキミソウの美しい響きやイメージのせいなのかもしれませんね。ちなみに、メマツヨイグサの花は白ではなく、黄色。夜中ではなく、夕方に花を開きます。
 メマツヨイグサの種子から抽出された油分は、「Evening Primorose Oil (EPO、夜に咲くサクラソウのオイル)」とも呼ばれ、リノール酸やγ-リノレン酸を含みます。北アメリカでは、痛みや喘息などの民間薬として利用されてきました。
 このほか近年では、EPOがリウマチや骨粗鬆症、糖尿病性神経障害の患者さんの症状を改善させとの報告もみられます。月経前症候群によると思われる乳房痛を軽減したとのデータもあり、さまざまな疾患への応用が期待されています。
 古くから使われてきた成分ですが、時々、腹痛や吐き気、軟便などの消化器症状がみられることがあります。また、フェノチアジン系薬剤で治療を受けている患者さんが、EPOを含むサプリメントを摂取したところ、てんかん発作が誘発されたとの報告があるほか、バルビツール酸系薬剤の抗けいれん作用を減弱させることも指摘されています。これらの薬剤を服用している人、けいれんを起こしたことがある人は、摂取を避けたほうが安心です。
 最近になって、血栓を予防する成分を含んでいることがわかり、新たな期待も寄せられていますが、抗凝固薬や抗血小板薬などを服用している場合は、併用は避けましょう。

 「富士には、月見草がよく似合ふ」。太宰治は、「富嶽百景」の中にこう書きました。でも、「ちらとひとめ見た黄金色の月見草の花ひとつ」とありますから、月見草ではなく、メマツヨイグサだったのかもしれません。ちょっとヤボですが・・・。