ヨウ素(ヨード)

 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を参考にして栄養素の摂取量などを紹介していく第12回目は、ヨウ素(ヨード)です。普段はあまり意識することがないかもしれませんが、日本人にとっては身近なミネラルの一つで、過剰摂取に対する注意が必要なミネラルです。

 私たちのからだに含まれるヨウ素は1300μg程度。その7~8割が甲状腺に存在しているとされ、甲状腺ホルモンの構成成分として大切な役割を担っています。甲状腺ホルモンは、からだの成長や基礎代謝など、さまざまな活動に深く関わっており、ほとんどの組織において、エネルギー代謝を亢進させるといわれています。

 世界的に見ると、山岳地帯や内陸部の国々を中心に、ヨウ素不足の地域は少なくありません。慢性的にヨウ素が欠乏すると、甲状腺機能は低下してしまいます。しかし、周りを海に囲まれ、ヨウ素を多く含む海藻類や魚介類などを食べることが多い日本では、通常の食事を摂っている限り、不足することはまずないといわれています。「海藻類なんて、そんなに食べない」と言っている人でも、おにぎりの海苔、おでんのコンブ、ワカメの味噌汁、カップうどんのスープ(昆布だし)などを、口にすることがあるはず。これらにもヨウ素が含まれているのです。

 日本人の1日のヨウ素摂取量は、海藻類をあまり含まない食事からの1日500μg未満を基本として、たまに摂取する海藻類を多く含む食事分が加わり、平均すると1日約1500μgになると推定されています。

 1500μgという値は、ヨウ素としては多い量で、中国やアフリカのデータでは、この量の摂取で甲状腺腫が引き起こされる可能性が高いとされています。日本人の場合は特に、「ヨウ素の摂取形態が極めて特異的」であるためヨウ素の過剰摂取の影響を受けにくい可能性が考えられるといわれていますが、過剰摂取から甲状腺機能低下症を引き起こす場合があり注意が必要です。ちょっとややこしいのですが、ヨウ素は不足でも過剰でも、日本人の場合は甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があります。

 2005版の食事摂取基準では、18歳以上の男女とも推奨量は150μg、上限量は3000μgでしたが、2010版では、さまざまなデータからの検討が加えられ、推奨量は130μgに、耐容上限量は2200μgに引き下げられています。


 ヨウ素は、のどに直接噴霧する消毒剤や風邪薬などにも含まれるものもあります。普段の食事からの摂取が多いだけに、これらの過剰摂取はヨウ素の過剰症から甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があります。また、妊娠中のヨウ素の過剰摂取にも注意が必要で、日本人には、ヨウ素のサプリメントは不要といえます。