クロム

 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を参考にして栄養素の摂取量などを紹介していく第13回目は、クロムです。過去に6価クロムによる公害が問題となったことがあるせいか、「クロムはからだに悪いもの」と思っている人もいるようですが、実際はどうなのでしょうか。

 1970年代、環境汚染物質として問題となった6価クロム。これは人為的に産み出されるもので、過剰に摂取した人の中には、皮膚炎や肺がん、鼻中隔穿孔などの健康被害がみられました。

 これに対して自然界に存在するのは、ほとんどが3価クロム。通常、食事から摂取するのも3価クロムで、こちらは毒性がないとされ、私たちのからだに欠かせない必須微量ミネラルとなっています。

 体内では糖質、脂質、蛋白質、コレステロールなどの代謝を維持するのに不可欠といわれています。特にインスリンの働きに密接に関与しているとされ、2型糖尿病に対するクロムの有用性も示唆されており、耐糖能障害者や2型糖尿病患者に200~1000μgのクロムを投与したところ、症状が改善したなどの報告もみられます。

 しかし、この200~1000μgという値、食事摂取基準における目安量は、18歳以上の男性で35~40μg、女性では25~30μgですから、いかに多い量であるかがわります。糖尿病の人が自己判断で、サプリメントなどからクロムを大量に摂取すると、血糖値を不安定にしたり、症状を悪化させたりするおそれも考えられますからやめましょう。2010年版の食事摂取基準では、耐容上限量が設定されていません。今回はデータや研究が不十分であるため、策定を見合わせたとのことで、いくら摂ってもいいというわけではありません。(WHOでは、1日250μgを耐容上限量としている)。

 クロムのサプリメントとしては、ダイエット効果をうたったものが多いのですが、糖尿病ではない人にクロムのサプリメントを投与しても、糖・脂質代謝改善効果をもたらさなかったとのデータがありますから、「サプリメントからクロムを大量に摂取することは控えるべき」といえます。


 とはいえ、2型糖尿病に対する“効果”が期待されているクロム。安全性の面も含めて、研究の成果が待たれるところです。いつか、クロムが糖尿病の治療の名わき役としてスポットライトを浴びる日が来るかも知れません。