ビオチン

 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を参考にして栄養素の摂取量などを紹介していく第16回目は、ビオチンです。あまり聞き慣れない名前かもしれませんが、「ビタミンB7」「ビタミンH」と呼ばれていた時代もある、ビタミンB群の仲間です。


 ビオチンは、栄養機能食品の一つ。1日当たりの摂取目安量中の栄養成分量が下限4μg、上限500μgを満たす商品には、栄養機能食品として「ビオチンは、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です」という機能の表示をすることができます。

 この文章の通り、健康な皮膚や粘膜をつくるために欠かせないビオチン。ビタミンHの“H”も、ドイツ語で皮膚を意味する“Haut”に由来するといわれています。

 医療用医薬品として、湿疹や接触皮膚炎、にきびなどの治療にも用いられることがあります。アトピー性皮膚炎の患者の中には、血中ビオチン濃度が低下している例もあるとされるほか、さらに最近では、掌跡蹠膿疱症の症状を改善するともいわれ、注目されています(ただし、ビオチンなどによる治療は、あくまでも専門医の指導と指示のもとで)。

 食事摂取基準におけるビオチンの目安量(推定平均必要量及び推奨量を算定するのに、十分な科学的根拠が得られない場合に、特定の集団の人々が、ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量)は、18歳以上の男女とも50μgとされています。

 ビオチンは、肉類や豆類、穀類、卵黄などに多く含まれ、腸内細菌によって体内でも合成されるため、通常、不足することはないといわれています。 しかし、長期間、血液透析や経管栄養を受けている人、抗生物質や抗けいれん薬などを服用している人などでは、ビオチンが欠乏する可能性が指摘されています。生の卵白を長期間、大量に食べ続けた場合、ビオチンが欠乏することが知られています。これは、卵白に含まれるアビジンという蛋白質とビオチンが強く結合し、ビオチンの吸収が阻害されてしまうためと考えられています。また、糖尿病やアトピーの人など血中ビオチン濃度が低い人の存在が報告されていて、ビオチンが不足している人は案外多く、様々な疾患に関係しているのではとの報告もあります。


 ほんの少しの量の栄養素でも、私たちのからだにとっては重要な役割を果たしているビオチン。その全貌が明らかになるには少し時間がかかりそうですが、食べ物だけではなく、それを作り上げてくれる腸内細菌にも目を向け、腸内環境を整えたいものです。