IBS(過敏性腸症候群)

 腸の過剰な運動と神経が過敏になることで、下痢や便秘、腹痛を繰り返しストレスなどで症状がひどくなる過敏性腸症候群(IBS)と呼ばれる疾患があります。我が国では、1000万人程度の患者さんがいらっしゃると言われていますが、実際病院を受診されている方は、25%程度とされています。

 出勤途中や会議中、家事の合間や旅行中に突然、お腹の調子が悪くなってしまうため「電車やバスに乗れない」「学校や仕事に行けない」「旅行や外出ができない」など生活の質(QOL)に与える影響は極めて大きなものと言えます。

 特に10~40歳代での発症が多いことを考えると、欠勤や仕事の能率の低下などによる社会的損失も大きいと言えます。IBSは、男性の場合は「下痢型」が多く、女性は「便秘型」、また下痢と便秘が合わさる「混合型」も知られています。

 下痢には下痢止め。便秘には下剤。それで対応するしかないと、これらの薬を連用されている方が多いと思いますが、IBSに効果のある薬は、医療用医薬品にはいろいろな種類が知られています。下痢にも便秘にもどちらにも効果を示す、高分子重合体や消化管運動調節薬(トリメプチンマレイン酸塩)などが、第一選択薬として使用され、これで症状が改善しないときに、下痢には乳酸菌製剤、便秘には少量の下剤、腹痛には抗コリン剤を追加して使用します。また、男性の下痢型IBSには、セロトニンの働きを抑えるラモセトロンが使用されます。この薬は、ストレスによる大腸運動の亢進や、腸での水分輸送の異常を整えたり、大腸の神経が過敏になっているのを抑えたりして、下痢の症状を抑えてくれます。但し、この薬の効果が期待できるのは男性だけで、女子には効果が期待できないと言われています。 このように、IBSの薬は、OTC薬にはないものが多く、受診によって、IBSが正しく診断されたのち、これらの薬が使用されることが、患者の生活の質の向上に大切と言えます。

 ところで、この秋ごろになると思われますが、消化管運動調節薬(トリメプチンマレイン酸塩)が、スイッチOTC薬として使用できるようにと、現在発売の準備がされています。下痢型にも便秘型にも、もちろん混合型にも効果が期待できるこの薬は、IBSで困っている方を救ってくれることと思います。

 ただセルフメディケーションで注意が必要なのは、下痢や便秘の背景に、大腸がん、炎症性腸疾患のクローン病や潰瘍性大腸炎が潜んでいないかの確認が必要なことです。習慣的な下痢や便秘で困っている方は、一度、病院を受診され、癌や炎症がないかの検査を受け、これらが否定されたら、新しいOTC薬で対応する。こんな、医療の流れができたらいいなと思っています。