口腔ケア

 1日1.5Lも分泌される唾液。唾液は実にいろいろな働きをしています。唾液の中のラクトフェリンやリゾチーム、免疫グロブリンは抗菌物質として働いていますから、これらが少なくなれば、虫歯や歯周病、誤嚥性肺炎が起きやすくなります。もちろん、虫歯や歯周病は口臭も引き起こします。

 口の中のちょっとした傷が腕などの傷と比べてとても速く治るのも、多くの成長因子が唾液に含まれているからです。また唾液は、食べ物の成分を味蕾に届けて味を感じさせてくれたり、舌などの滑りを良くして言葉を話すことができるようにもしてくれています。しかし、この唾液の分泌は加齢によって低下します。抗ヒスタミン薬など、唾液分泌を抑制させる薬の影響も少なくありません。

 ところで、昔は総入れ歯の人も多く、口腔内の衛生を保つには、パカッと入れ歯を外して洗浄すればよかったのですが、現在では、高齢でも自分の歯がたくさん残っている人も多く、入れ歯も部分入れ歯。パカッとはずして、というわけにはいきません。

 特に寝たきりになると、歯科を受診することもできなくなり、口腔内の衛生状態はどんどん悪化することになります。口腔内の衛生低下は、細菌やカンジダなどの真菌の増加にもつながり、これらの不顕性誤飲による肺炎を引き起こす可能性もあります。

 それでは、口の中をきれいにするために、殺菌消毒剤で頻繁にうがいをするのがよいか、と言えば決してそうでもありません。私たちの口の中には、健康な体には悪い影響を与えない細菌が住みついていて、私たちの体に入ってくる、病気を引き起こす原因になる他の菌を排除する役割を担っています。ですから、殺菌消毒剤の過度の使用は、常在細菌にまで影響を与えて問題となります。うがい薬の使用回数など添付文書に従って、きちんと使用することが大切です。

 高齢でなくても、唾液の分泌が少なくなる薬を飲んでいなくても、緊張したりストレスがかかったりすると、唾液の分泌は減少します。人前で話そうとしたらのどがカラカラで上手く話せなかった、そんな経験をされた方もいらっしゃるでしょうね。

 気の合う仲間や家族と一緒に楽しい食事をするときには、唾液はたくさん出てきます。でも、嫌いな人や緊張したときには、唾液の出も悪く、何を食べているのかわからない。そんなこともありますよね。

 高齢の方、部分入れ歯などがある方、唾液の分泌を抑える薬を服用している方、緊張を強いられる環境にある方などは、特に口腔ケアが大切です。

 アルコールやメントールなどの刺激成分を含まない洗口剤でのうがいや、口の中の保湿剤、ビフィズス菌入り歯磨きペーストの使用などもお勧めです。